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2009年9月

2009/09/18

13と1/2.西町バッティングセンター(前編)

ブックス・エマニエルの主人はレジに座って居眠りをするのが仕事のような人だ。帰宅途中の小学生達はそんな主人の様子をうかがいながら、平積みされた今日発売の週刊少年チョンボを立ち読みしていた。これは火曜日のいつもの風景。

巻頭カラーの『有毒(ポイズン)ジョージ』、人気漫画『テトラポット』と少しエッチな『ちょっとヒカル』を無事読み終えたポエタとイオットは歩きながら感想を述べあっている。

「はぁ、テトラ捕まっちゃったね。あのあとどうなるんだろうね?」
「僕は黒シャツの男が助けに来ると思うな。」
「えー?あれは敵だってば。」
「そうかなぁ?」
「だって黒いシャツだよ。」
「そうかなぁ?早く次の火曜日こないかな。」
そんな話をしていると後ろから自転車が近付いてきた。
『チリリン』
ベルの音に気付いて、二人は間を開けた。そこを自転車がさっそうと走って行く。抜かれる瞬間、ポエタは自転車の人の顔を見て驚いた。

「!」
「ポエタ、見た?!」
「見た見た!イオット、追いかけるぞ!」
「うん!」
自転車のお兄さんはテトラポットの主人公、テトラにそっくりだったのだ。

「何で?!何で?!何で?!テトラ?!何で?!テトラ?!何で…」
リズミカルに叫びながら2人はバタバタと自転車を追いかける。お兄さんの背中には『西町バッティングセンター』と書かれている。自転車はどんどん走っていく。次第に引き離されていく2人。

「もぅダメだ!イオット!まかせた!」
ポエタは二つ目の信号で脱落。
イオットはポエタを振り向きもせずに自転車を追いかける。
「第1エンジン!切り離し!」
イオットは息を切らしながらそういうと、腕をもぞもぞ動かして背負っていたランドセルをドスンと後ろに落とした。ちょっとスピードが上がったが、自転車はもっと早い。
「早い…!早い…。…早い…。」
イオットもついに力尽き、ついに走るのをやめてしまった。自転車は、先の歩道橋のある十字路を右に曲がって見えなくなった。

イオットが歩いて歩道橋の十字路に着いたのはそれからしばらくしてからの事だった。右に曲がるとすぐ目の前がバッティングセンターだった。『パキーン、パキーン』と気持ちの良い音が聞こえる。建物の2階に昇る階段の脇に『西町バッティングセンター』と斜めに看板があり、階段下の駐輪場には追いかけていた自転車があった。
「…あった、ここだ。」

歩道橋の十字路をポエタが歩いているのが見えた。ポエタはこちらには気付かず真っ直ぐに歩いていくところだ。
「ポエター!こっちー!」
「あ!イオットー!」
ポエタはイオットのランドセルを前に担いでいる。2つのランドセルをガチャガチャ鳴らしながら走ってきた。
「あれあれ、見て。」
イオットが自転車を指して言った。
「…やったな!イオット!」
「うん、あの中にテトラが。」
「よし、いこう!」
「いこう!…あ!ポエタ、ちょっと待って!」
イオットは歩き始めたポエタの肩をグイとつかんだ。
「いて。」
「ほら、あの人…。」
向こうから歩いてくるネクタイのおじさんの顔を見て、2人は絶句してしまった。男は引きつった顔で固まっている2人のそばを通り、階段を昇り、扉を開けて中に入っていった。

「今のって…ルベンジェ博士…だよね?」
「…うん…。」
「…何で?」
「わかんない…。」

夕暮れが近くなった高い空に金属バットの音が響いている。

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2009/09/10

THE KIDS ARE ALRIGHT

The_kids_are_alright

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2009/09/01

12と1/2.こないだのお昼休み

小学校の校庭の花壇は色とりどりの花が咲いています。赤や黄色や鮮やかな青い花、背丈の高いヒマワリのようなモノも。
そんな賑やかな花壇の隅に土がむき出しのスペースがありました。用務員さんはその前にうなだれてしゃがみ込んでいます。
「やっぱりダメか…。」

「あー!」
イオットが蹴ったボールは鉄棒を飛び越え、用務員さんのすぐそばにあった猫車にぶつかりました。猫車はバランスを崩してゆっくりと倒れました。
『ガシャー!ガラガラ!』
載せてあったスコップやクマデや束ねてある麻縄やなんかが、かわいた地面の上に散らばりました。
「ごめんなさい!」
用務員さんは立ち上がって、走ってくる男の子に言いました。
「大丈夫だよ。」
ボールは花壇の奥の方に飛んでいって見えなくなりました。
2人は一緒に猫車を起こして散らばった物を片付けました。
「すいませんでした。」
「いやいや、いいんだ。ここに置いてあったのがいけないんだ。」
イオットは用務員さんの後ろの花壇を見て聞きました。
「あのー、そこって、何か植えたの?」
用務員さんはイオットの言った『そこ』を一度見て、答えました。
「今年もダメみたいだ。芽も出ない。」
「ふぅーん。」
「難しい植物なんだ。一度も育った事がなくて。…よっと。」
用務員さんは花壇を飛び越えました。
「他はいっぱい咲いてるのにね。」
「あった。ほら。投げるよ。」
用務員さんはイオットの水色とピンクのボールを優しく山なりに投げました。
「ありがとう。」
「こないだまで使ってたボールと違うね?」
「ああ、ちょっとなくしちゃったの。」
「なくした?」
「んーとね、どこにあるかはわかるんだけど…。」
「?」
イオットは後ろを振り返りました。視線の先には校舎があります。
「誰かに盗られた?」
「ううん、屋上。」
「屋上か。」
「上に蹴ったら落ちてこなくなっちゃったの。」
「よし、じゃあ今から取りに行こうか。」
「本当に?!」
「うん、ちょっと鍵取ってくるよ。」
用務員さんはそう言うと猫車を押して校舎の方に歩いて行きました。

『キーンコーンカーン…』
「あ!鳴っちゃった。」
少し歩いた用務員さんが振り返って言いました。
「じゃあ今度さ、昼休みに用務員室においで。花壇にいなければそこにいるから。用務員室、わかるよね?」
「旧校舎。でもいったことない。」
「大丈夫、来たらすぐわかるよ。」
イオットはボールを抱えて昇降口にかけていきました。空は今にも雨が降りそうにどんよりとしていました。

   こちらから → 10.お昼休み 

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