« 9.小春日和のケモノ | トップページ | 古い写真 »

2009/04/14

6と1/2.マと商店街

マは今日は午後出勤なので敢えてちょっと寝坊した。根っからの剛毛でそう簡単に寝癖は戻らないので、いつもそのまま。
「今日さ、晩飯いらないから。」
靴の先をトントンと床に打ち付けながら言った。
「どっか寄って来るの?」
フィルムの品出しをしている母親が聞いた。
「いや、新しいピッチングマシンが来るから遅いと思う。」
「わかった。いってらっしゃい。」
「行ってきます。」
「気をつけて。」
マは『西町バッティングセンター』のバックプリントのジャージ姿で写真店の出入り口から出た。
「おっと!」
出た途端に自転車とぶつかりそうになった。昼時の商店街は人通りが多い。マは小走りで反対側の歩道に渡った。名前がよく変わる服屋(今はブレインズボトム)のドアには『フィンクにいます。』と貼紙がしてある。ガラスに映った寝癖頭を撫でる。がすぐにビヨンと戻る。ため息。

床屋の前に差し掛かった。おじさんが鏡に向かって自分の髪をセットしている。おじさんはこちらに気が付いて店から出てきた。
『カラン、カラン』
「マくん、いつ見てもマブい髪型だね。」
「いやぁ、全然言うこと聞かなくて。諦めてます。」
「いや、良いよ。テトラみたいで。ところでさ、マくん、こないだはゴメンネ。」
キッチェがコームを持ったまま言った。
「何がですか?」
「サルコが無理な事お願いしたみたいで。」
「ああ、いいんですよ。」
「ありがとう。」
「おじさん、どっか行くんですか?」
私服姿のキッチェを見てマが聞いた。
「ちょっと図書館に行こうと思って。新しくなってから行った事ある?」
「あー、いや、学園前にあった時も一度も行った事ないス。」
「あら、ホントに?」
「本なんか読むなと、死んだ祖母の遺言で。」
「そんなことより野球をしろって?」
「いや、そこまでは言われませんでしたけど、まぁそういう事だと思います。」
「はは、マくんらしいね。そうだ、コーヒーでもどう?」
「あ、いえ、今から仕事なんで。」
「あ、ゴメン。じゃあまた今度ね。」
「はい、アザース。」

カフェ・フィンクの外席のいつもの席では服屋(今はブレインズボトム)のビッグマダムと従業員の若い女性がワインを飲みながら食事をしている。マダムはポークソテーと厚切りベーコンのカルボナーラで明らかにカロリーオーバー。ナイフでポークソテーを切る度にアンティーク調の椅子がギシギシ鳴った。
通り過ぎる時に会話が聞こえたが、また店の名前を変えるみたいだ。

|

« 9.小春日和のケモノ | トップページ | 古い写真 »

おはなし」カテゴリの記事

コメント

ホントにうまいことおはなしが繋がっていって☆ホントにうまいこと登場人物たちが絡み合って☆
やっぱりたけおさんはおはなし作りの天才ですっ!!!

一度でいいからあの街一員になってみたい♪
ブレインズボトムの下っぱのレジ係とかでもいいんでぇ…いつかスズキ☆ピロも仲間に入れて下さい(*>ω<)/笑

投稿: | 2009/04/15 21:24

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1148039/29113550

この記事へのトラックバック一覧です: 6と1/2.マと商店街:

« 9.小春日和のケモノ | トップページ | 古い写真 »